ケーススタディ 離婚に伴う養育費や慰謝料支払などの公正証書を作りたいのですが
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公正証書を実際に作成する手続きなどは, 「公正証書を作成する流れと必要書類を教えてください」 をご覧ください


 今度,サラリーマンをしている夫と別れることになりました。
 夫との間に5歳と2歳になる子どもが二人います。
 あとあと揉めるのがいやですので,離婚届を出す前に慰謝料や子どもの養育費のことなどをきちんと決めておきたいと思ってやって来ました。
 
 わかりました。
 離婚届を提出する日と届出はどなたがするかお決めになっていますか。
 
 
 はい。
 公正証書を作っていただいたらその足で私自身が区役所へ届出をするつもりで,夫も承知しています。
 

 わかりました。
 まず,お子様のことから順番に伺ってまいりましょう。

 離婚するときはお子様の親権者と実際に手元で養育される監護者を決めておかなければなりませんが,この点御主人と話し合われているのでしょうか。


 はい。
 私が親権者になり,子どもを引き取って手元で育てたいと思っています。
 夫には,月々養育費を負担してもらいたいと思っています。


 養育費は,お子さんが親から自立するまで養育してもらうための費用ですから,離婚したとはいえ,親には違いない御主人にも負担していただくのは当然ですね。
 月々の養育費の金額と支払い方法はお決めになっていますか?
 

 ひと月の養育費を二人合わせて10万円にしてその月の分を月末までに私の銀行口座に振り込んでもらうことになっています。
 振り込みの費用は夫が負担してくれるそうです。
 この金額はどうなんでしょうか,一般と比べて高いのか低いのかわからないのですが。

 
 養育費の額は,親の資力・生活水準などを考慮して決めるべきものですから一般的にいくらということはできません。
 ただ,東京と大阪の家庭裁判所の裁判官が研究して作成した養育費の算定についての資料で,広く活用されている
           養育費算定表
というものがありますのでご参考になさってください。

 
 わかりました。
 夫とその資料を基にしてもう一度金額について話し合ってみます。
 養育費の決め方や支払ってもらう方法について何か注意することはあるのでしょうか。
 
 
 養育費は,お子さんが複数おられるときは,一人当たり5万円というように各人ごとに決めておいた方が良いと思います。
 合計額で10万円と定めておくと,お子様の一人について支払いが終了したときなどに残った一人の金額がいくらになるか疑問が生じて改めて協議しなければならない場合が考えられるからです。

 それから養育費はお子様が何歳まで支払い続けるか,ご相談なさいましたか?

 
 養育費は,離婚届を出した月から子どもたちが大学を卒業するまで払ってもらうことにしてあります。


 問題は,「大学を卒業するまで」という支払の終了期限の決め方ですね。
 この決め方ですと,高校を卒業してすぐ就職した場合はどうするか,大学を留年した場合はどうするか,大学に入るまでに何年もブランクが生じたらどうするか,などいろいろな問題が出てきて,御主人の方ではいつまで養育費を払い続けたらよいのかわからなくなってしまいます。
 そこで,一般的に大学を卒業する年齢を22歳として,御主人が支払う養育費の最終回を
お子さんが満22歳に達した最初の3月まで
というように,確定的な期限を切って支払期間を明確にすることをお勧めします。

 この点について御主人とよくご相談なさってください。


 わかりました。
 では,子どもが健康保険でまかなえないような大病をしたり,入学費などのように特別の支払いが必要になった場合,夫に負担してもらえるようにできるのでしょうか。


 その場合は,通常の養育費用では賄えませんから,御主人に特別の負担もお願いせざるを得ませんね。
 ただ,その金額は今から決まっているわけではありませんから
 当事者双方は,○○及び△△(お子様)の進学,病気等による特別の費用の負担については, 別途協議するものとする。
というように将来のお二人の協議に委ねる形を採らざるを得ないと思います。

 
 養育費は長い間払い続けてもらうことになるのですが,その間に私が病気になったり,物価が極端に上がったりした場合,月5万円では養育費として足りなくなることがあると思うんです。
 そのような場合,夫に月々の養育費の増額をお願いすることはできるのでしょうか。
 
 
 そうですね。確かに,10年先,20年先のことまで今から決めておくというのはお互いに不安がありますね。
 そのような場合は,事情変更の原則により金額の変更が認められている親族間の扶養についての民法の規定(880条)を養育費の場合にも当てはめて,将来いろいろな事情で養育費の金額を増減するのが妥当と思うようになったら養育費の増減を相手方に請求できることにしておきましょう。
 この場合,公正証書の中に
 将来,物価の変動,甲(夫)又は乙(妻)の再婚,失職その他の事情の変更があったときは,甲と乙は,○○及び△△(お子様)の養育費の変更について,誠実に協議し,円満に解決するものとする。
という条項を加えておいたらいかがでしょうか。

 
 でも,夫が協議に応じなかったらどうなるのでしょうか。
 
 
 その場合は,家庭裁判所の調停や審判によることになりますね。
 
 
 公正証書を作っておくと支払いをしてもらえなかったときに裁判の手続きなしで強制執行できる,と本に書いてあったのですが, 養育費も同じなんでしょうか?

 
 もちろん公正証書に御主人が強制執行に服すると認めている記載があれば養育費も裁判によらずに強制執行できます。
 御主人はサラリーマンということですので,差押えの対象になるのは一般的にはまずは勤務先から支給される給料や預貯金などの債権ということになります。
 
 
 夫が養育費を払わなかったら,その都度,強制執行の手続きをお願いしなければいけないのでしょうか?

 
  おっしゃるとおり,差押の手続きは結構面倒で,しかも,支払いが滞った養育費の1回ごとに差押えしなければならないのはあまりに煩雑ではないか,という問題がありました。
 これは養育費を請求する側にとって高いハードルでしたが,平成15年の民事執行法の改正で,養育費のほか
 ・夫婦協力扶助義務に基づく債権
 ・婚姻費用分担義務に基づく債権
 ・扶養義務に基づく債権(扶養料)
などの債権(「定期金債権」といいます。)に関しては,支払期限の過ぎたものだけでなく,これから支払期限の来るものについても強制執行を開始することができ,将来の給与などを差し押さえることができるようになりました。
 つまり,一度強制執行を行えば,将来にわたって義務者の給料から天引きで養育費を受け取れるようになりました。

 
 何回分も支払いが滞っていた場合,夫のお給料を全部差し押さえることができるものなのでしょうか?

 
 そうしたいところでしょうが,債務者の生活維持という観点から,債務者が勤務先に対して有する給料などの一定の範囲については差押えが禁止されています。
 例えば,金銭消費貸借などで生じた一般の債権の場合は,給料は原則としてその4分の1までしか差し押さえることができません。
 しかし,先ほどご説明した法改正で,養育費などの定期金債権に関しては原則として御主人受け取る給料の2分の1まで差し押えることができるよ うになりました。

 このように,養育費などの定期金債権については,ふたつの面で従来よりも強制執行がし易くなりました。

 
 それから夫は離婚後も子どもと時々会いたい,と言っているのですが,私も会わせてやりたいと思っています。
 でも,夫の都合に合わせて好きなときに会ってもよい,ということでは私も困りますので,そのことについても決めておきたいのですが。

 
 面接交渉と言われているものですね。
 お子さんを監護していない配偶者に面接交渉権があるという明文の規定はありませんが,お子さんの監護について必要なことですので,これについての取り決めも公正証書に盛り込んでおくとよいでしょう。
 ただ,どのような条件で面接交渉を認めるかということはできるだけ包括的,一般的に取り決めておいた方が良いと思います。
 例えば
 乙(母)は甲(父)に対し,○○及び△△(お子さん)との面接交渉を認める。その面接の回数は1か月1回程度を基準とし,回数,日時,場所及び方法については,丙・丁の情緒安定に留意し,丙・丁の福祉に慎重に配慮して,甲及び乙が誠実に協議して定める。
というような定め方が考えられます。
 ほかに面接交渉の方法として,電話,手紙の交換,学校行事への参加等が考えられますので,どのような取決めにするか,御主人とご相談なさってください。

 
 
 わかりました。
 それから,離婚することになったのは,夫の不貞が原因なので慰謝料を払ってもらうことになっていますので,これを公正証書にしてもらいたいのですが。

 
 慰謝料の金額と支払い方法は決めてあるのですか?

 
 
 金額は300万円で,毎月10万円ずつの分割払いということで話し合いができています。

 それから,夫が毎月の分割金を払わなかった場合,いちいち強制執行をするのは厄介ですので,残り全部を一度に払ってもらう,という方法は採れないのでしょうか?

 
 おっしゃるとおり,先ほどの養育費の場合とは違って,慰謝料を一括でなく分割で支払う場合は,不履行が生じた場合でも,すでに期限が来ている分しか強制執行ができませんから,毎月毎月強制執行の手続きを採らざあるを得ないという大変面倒なことになりますね。
 そこで,分割金を1回でも支払わなかった場合は,残金を一括して直ちに支払うという約束をしてもらい,これを公正証書に盛り込むことをお勧めします。これを期限の利益喪失条項といいます。
 
 
 それから,強制執行の手続きに時間がかかる場合,ぐずぐず支払いを先延ばしされると困りますので,約束を守らなかったら利息のようなものを払ってもらいたいと思っているのですが。

 
 わかりました。ぐずぐず支払いを先延ばしにして結局支払う金額が同じならゴネ得のようになってしまいますからね。
 そのような場合,期限の利益を喪失した日の翌日から支払い済みまで年何パーセントかの遅延損害金を支払うことを約束してもらって,これを先ほどの期限の利益喪失条項と共に公正証書に盛り込むことで御主人とご相談なさってください。

 
 
 今住んでいるマンションは住宅ローンで夫の名義で買ったのですが,離婚した後,私と子どもたちがこのまま住み続けたいということで,夫から私に財産分与してもらうことになっています。
 残りのローンは夫が払ってくれることで話し合いはできているのですが,もし,夫がローンの支払いをしてくれないと私が代わりに払うか,それができないとマンションを手放すことになってしまうので不安に思っています。
 公正証書になにか安心できるような内容を盛り込んでいただけますか?

 
 確かに,御主人がローンの支払いをしないと住むところがなくなってしまうかもしれませんね。
 例えば
夫のローン不払いにより妻が弁済せざるを得なくなったときのために,妻の夫に対する  事前・事後の求償権を確保する
又は
妻は,夫のローンを,その弁済期に夫に代わって支払うことにして,夫は妻に対してそ   の弁済資金であるお金を弁済期限に合わせて支払う
というようなことを公正証書に盛り込んでおくのも一つの方法かと思いますので,御主人とよくご相談なさってください。

 

 私は仕事をもっているため,離婚してもできたら今のままの姓でいたいのですが,そんなことできるのでしょうか?


 その点,公正証書に盛り込むことではありませんが,いろいろ誤解があるようですのでご説明しておきます。
 離婚後の戸籍と姓の選択には,次の3通りの方法があります。
 ・旧姓に戻り,実家(結婚前)の戸籍に戻る
 ・旧姓に戻り,自分で新しく戸籍をつくる
 ・結婚時の姓を継続使用し,自分で新しく戸籍をつくる
という選択肢です。
 離婚により婚姻前の姓に復した妻又は夫が,婚姻中の姓を引き続いて名乗りたいのであれば,離婚をした日から3か月以内にあるいは離婚届と同時に
     離婚の際に称していた氏を称する届
を市区長村役場に出します。届出に必要なのは本人の署名押印だけで,その理由も,相手側の許可もいりません。
 ただ,離婚した後,元の実家の姓に戻るか,婚姻中の姓のままにするか,迷っている場合は,離婚届を提出するときに,「離婚の際に称していた氏を称する届」をとりあえず出さずに,いったん旧姓に戻ってから猶予期間の3か月以内に離婚後の姓を決めたらいかがでしょうか。


 もし私が旧姓に戻った場合,子どもたちの姓はどうなるのでしょうか?
 私と同じ旧姓にできるのでしょうか?


 離婚届を出しただけでは,お子さんは現在の戸籍筆頭者である御主人の戸籍に入ったままで,一緒に住んでいながら母親と戸籍も姓も別々のままということになります。
 したがいまして,お子さんを母親の戸籍に入れるための審判・入籍届などの手続きが必要になります。
 お子さんを母親の戸籍に入れ,母親の姓を名乗らせるために,先ず家庭裁判所に
子の氏の変更許可申立書
を提出して家庭裁判所に審判を申し立てます。この審判は早ければその日のうちにも結論が出るようです。
 お子さんの母親の戸籍への入籍は,入籍届に家庭裁判所の許可を得たことを証明する
子の氏の変更許可審判書謄本
を添付して市区町村役場に届け出ます。
 この入籍届の受理によりお子さんは母親の戸籍に入り,母親の姓を正式に名乗ることができます。


 わかりました。
 よく考えてみます。
 ところで,今日ご相談した内容の公正証書を作るためにどのような書類を用意すればよろしいのでしょうか?
 新宿公証役場のホームページのケーススタディを見ましたが,あそこに書いてあることのほか,離婚の場合,特に必要な書類はあるのでしょうか?


 ご夫婦の身分証明書についてはケーススタディに書いてあるとおりです。
 ほかには,戸籍謄本を拝見させてください。ご夫婦とお子様との続柄等を確認させていただきますので。
 あとマンションの登記簿と固定資産税評価証明書をお願いします。分与される財産の特定と手数料の算定に必要となります。

 
 わかりました。
 最後にお聞きしたいのですが,今日お願いした内容の公正証書を作るとして手数料はどのくらいになるのでしょうか?
 とりあえずマンションを1500万円としてください。

 
 
 わかりました。
 まず養育費と慰謝料・財産分与とは別の法律行為となり,手数料が二つになりますので算出してみます。

 養育費の価額 10万円/月×12月×10年=1200万円・・・@
 (養育費や家賃などの定期給付の場合は支払期間が最長10年までを価額のもととします。)
 慰謝料300万円+財産分与1500万円=1800万円・・・A

 @の手数料 23,000円
 Aの手数料 23,000円

 手数料合計は@+A=46,000円となります。
 これに用紙代が加算されます。

 
 
 わかりました。
 ご指摘の点を夫と相談してまいります。